自然放射線とは? 宇宙線 天然の放射能 建材とラドン 体内からの放射線 まとめ
自然放射線とは? 宇宙線 天然の放射能 ラドン 体内からの放射線 まとめ
実は、生活環境に放射線が全くないのかというと、さにあらず。我々は常に微量の放射線にさらされている(被爆してるっ!)んです。これを「自然放射線」といいます。

自然放射線には一体どんなものがあるのか?。それは宇宙からの「宇宙線」と、地球誕生から存在する地球上の放射性物質に由来します。
宇宙線は、さらに一次宇宙線と二次宇宙線に分類されます。地上では殆ど全て二次放射線のみが存在します。そして地上の放射性物質は、天然の放射性物質と、外からの宇宙線によって生ずる放射性物質とに、分けることができます。

そもそも地球の一歩外側は放射線であふれ返っていて、太陽からの太陽宇宙線(太陽風)、さらに太陽系の外からの銀河宇宙線が飛び交い、それは生命にとって危険なレベルです。地球の大気と磁力線が、それらから我々を守ってくれています。
また放射線のレベルは、地上のどこにいても一定というわけではありません。例えばより宇宙に近い(高海抜高度の)、国際線の航空機内の放射線量は、地上と比べて約100倍にも達します。
地域差というのもあります。一般に西日本は東日本よりも高い傾向にあります。これは、その地域の地質によって微量のウラン、トリウム及びそれらの崩壊生成物を含んだ「火成岩」の分布に差異があるためです。

また、それらの放射能による被爆には人体の外から浴びるもののほか、水や食物として体内に取り込み、体内で浴びている(内部被曝という)ものがあります。

では一体どれくらいの被爆量なのか?。UNSCEAR(国連科学委員会)の1988年資料をもとに解説します。
自然放射線とは?
宇宙線
宇宙線が「一次宇宙線」と「二次宇宙線」とに分類されることは、先に触れました。一次宇宙線は、宇宙空間から大気に降り注ぐもので、主として高エネルギー(高速度)の陽子(水素原子核)、アルファ線(ヘリウム原子核)などです。

一次宇宙線は、地球の地磁気と大気が障壁となり、地表まで到達できません。それらは、大気を構成する窒素、酸素といった原子と核反応を起こし、γ線、β線、中性子線などの放射線に姿を変え、次第にエネルギーも低くなります。これが二次宇宙線です。

宇宙線と、地磁気・大気との相互作用は、高緯度地域すなわち北極・南極近くで、「オーロラ」として肉眼で観測することができます。太陽風と呼ばれる太陽放射線のうち、荷電粒子(電子・陽子など電気を帯びた粒子)は、地磁気の磁力線に沿って、地球をとりまく”リンゴの実”のような渦を形成しています。ヴァン・アレン帯と呼ばれる構造です。
低緯度(赤道付近)地域では、地球に侵入しようとする宇宙線は、磁力線に垂直に入射するため、大きく進路を変えられてしまいます。しかし、高緯度では磁力線と平行に入射することとなり、大気のある低高度まで到達しやすいのです。このとき宇宙線は大気と衝突して、エネルギーの一部は可視光線へと姿を変えます。これがオーロラの正体です。
大気との相互作用で発生した二次宇宙線も、地表近くまで到達する間には、さらにエネルギーを失っていくため、海抜高度がより低い地域のほうが、放射線量は少なくなります。

それと、宇宙線が地球の安定元素と核反応することにより、新たに生ずる放射性同位元素(*1)の、大気や土壌などへの堆積物が、僅かに存在します。主なものに、
H(トリチウム):半減期(*2)12.3年
 *Hの「3」という数字は、質量数つまり原子核の陽子・中性子の総数を示す数字。
14C(炭素14):半減期5730年
22Na(ナトリウム22):半減期2.602年
Be(ベリリウム7):半減期53.3日 などがあります。

宇宙線による我々の外部被爆は、年間 0.36mSv(ミリシーベルト)ほどになります。


(*1) 放射性同位元素(=放射性物質):
原子核を構成する陽子・中性子のうち、陽子数が同じで中性子数が異なる原子は化学的性質がほぼ共通することから、「同位体」と呼ぶ。
陽子数に対して中性子数に過不足のある原子の一部は不安定な状態にある。つまり壊変を起こして、より安定した状態(「安定同位体」)へと姿を変える性質をもつ。
この不安定な同位体を「放射性同位体」(放射性同位元素)という。
(*2) 半減期:
ある放射性同位体が、放射性壊変を起こし、文字どうり放射能が半分に減るまでに
要する時間。
地球誕生以来46億年といわれています。太陽系が生まれた経過には諸説ありますが、それはともかくとして地球は、宇宙の塵とかガスを主体として形成されたと考えられています。

恐らく、誕生当時は放射能あふれる惑星だったのでしょうが、放射能をもつ放射性同位体には、「半減期」というものがあるので、次第に消滅した結果として、46億年後の現在、この地球には極めて僅かにしか存在しないと考えられています。そのため、現存する天然の放射性物質は、地球の年齢と比べても半減期の長いもの、あるいは多少短くても、存在比の多いものが残っているのです。代表例をいくつか挙げておきます。

40K(カリウム40):半減期12.8億年
87Rb(ルビジウム87):半減期480億年
232Th(トリウム232):半減期14億年
238U(ウラン238):半減期45億年

*このうちトリウム232とウラン238は、放射性の原子崩壊によって生まれた新たな原子もまた、不安定な放射性原子であり、最終的に鉛の安定同位体になるまで、α線、β線、γ線といった放射線を放ちながら崩壊を繰り返す。ラジウム、ラドンなどもこの崩壊途中の放射性同位体にあたる。

これら地球上の天然放射性物質からの外部被爆は年間 0.41mSV程になります
天然の放射能
建材とラドン
地球由来の放射性物質は、あまねく全ての天然物に、ごく僅かづつですが含まれます。とくに建材にも含まれる火成岩は、堆積岩に比べてウラン・トリウムなどの含有濃度が高く、γ線やラドン(気体の放射性物質で、α線・γ線を出す)を放出します。ラドンは気体ですから、おもに呼吸により肺に侵入して被爆することになります。体内に侵入したラドンは、その崩壊生成物も放射能をもつため、被爆量は、他のものと比べても大きい割合を占めていて、ラドンからの内部被爆は年間 1.28mSvになります。

ラドンは気体ですから、地中から出て空気中を漂っていて、その濃度は 5 Bq/m^3ほどといわれています。では屋内なら安心?いえいえその逆なんです。日本での平均屋内ラドン濃度は屋外の2〜3倍というデータがあり、世界の高濃度地域に至ってはさらにその数倍におよびます。
地中から出たラドンは、床下から屋内に侵入してきます。また石材・コンクリート材など建材からも、ラドンは放出されています。地下室は周囲が土壌で囲まれていて、換気がよいとは言えません。高濃度になりやすい条件と言えます。
極端な例では、換気を行わず高気密下の条件を放置していると、室内のラドン濃度はどんどん上がって、10日ほどの間にも数百倍に達することがある、という報告もあります。近年の省エネルギー住宅は高気密化が進んでいます。ラドン濃度の上昇を抑制する観点から、「換気」ということが、とても重要なテーマといえます。
被爆量については、他の自然放射線と分けて考えるのは容易ではなく、しかも建材の種類、使用量、密度、状態(塗装の有無など)、距離、湿度、換気の状態、などなど全ての事象を公衆の被爆として統計学的に算出するのは、容易なことではないでしょう。UNSCEARの資料でも、はっきりと「建材からはこのくらいの被爆量」とは出されていません。
  
前項までは、あくまでも自然環境(人体の外)からの放射線です。実は我々の体内にも微量の放射性物質が存在していて、わずかながら常に放射線は発生しています。
これは、天然の放射性物質(宇宙線生成物を含む)が、水や食物として体内に取り込まれたものです。

代表的なものが、カリウム40です。天然存在比は0.0117%。カリウム自体は人体に必須の物質で、体重の約0.2%含まれます。
単純計算により体重60Kgに対して、約14mgのカリウム40が常に体内に存在することになります。
カリウム40は、エネルギー1.33MeV(メガエレクトロンボルト)のβ線を出す崩壊が89%、1.461MeVのγ線を出す崩壊が11%と、一定の確率のもと、2種類の崩壊形式をたどります。

半減期(物理学的な)が長いので、代謝による生物学的半減期は無視できるとして、では、一体14mgのカリウム40から、どれだけの放射線が出ているのか?。ちょっと計算してみましょう!

単位時間あたりの放射能は、カリウム40の原子数をN(個)、半減期をT(秒)として、

  -dN/dt = ln2*N/T より、一秒間に原子が崩壊する数:Bq(ベクレル)は、

  0.693*0.014(g)*6.02*1023/(40(g)*1.28*109(y)*365(d)*24(h)*3600(s)) = 3600 (Bq)

毎秒平均で実に、3204個ものβ線及び、396個のγ線が、体内で発生しているわけです。
水や食料に含まれる放射性物質として、このほかルビジウム87、炭素14などがあり、合わせて年間 0.35mSvほどの被爆量になります。


内部被爆としては、このほかウラン238とトリウム232の崩壊生成物であるラドンによるものがあります。ラドンは常温で気体ですから、呼吸により肺に入って被爆します。
体内からの放射線
以上の被爆量を積算しておきましょう。
実のところ、自然放射線からの被爆量については、出所によってデータもバラバラで・・・・。最も広く採用されているデータである、UNSCEAR(国連科学委員会)の1988年資料を引用してみましたが、他にもこれとは異なるデータがいくつもあるんです。参考までに、もうひとつ紹介させていただきます。

放射線医学総合研究所:「全国の自然放射線量」
これは、都府県別(北海道はブロック別)の自然放射線について、一人あたりの年間線量をまとめたもの。この資料によれば、日本における自然放射線量は一番少ない神奈川県(0.81mSv/年)から、一番多い岐阜県(1.19mSv/年)の範囲になります。UNSCEARの半分以下ということになりますね。
自然放射線による年間被曝量
放射線の源 被爆量(mSv)
宇宙線 0.36
地球(大地)から 0.41
食物から 0.35
地球(吸気)から 1.28
合計 2.40
自然放射線のまとめ
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