おことわり

病院でのエックス線検査や放射線治療など「おなじみ」の放射線利用に関しては
あらためて解説するまでも無いほど多くのサイトでとりあげられていますので、
ここでは意外と見過ごされがちな事柄についてのみ、触れています
ホームへ
戻る
次へ
●滅菌消毒

医療用具など、無菌であることを要求される製品の一部に、ラミネート密封されたのちにガンマ線滅菌されたものが、販売されています。
他にエチレンオキサイドガス滅菌、煮沸滅菌といった方法があります。
ガンマ線滅菌 エチレンオキサイドガス滅菌
医療での放射線利用
●照射血液

病気や怪我、あるいは手術に伴う失血を補うために、「輸血」がおこなわれることがあります。違う型の血液を輸血してしまう「輸血ミス」事故のニュースを耳にすることがありますが、輸血のリスクは「輸血ミス」だけではないんです。血液型が合っていても、リンパ球の作用による「輸血後GVHD(移植片対宿主病)」という、致命的な副作用が起こる場合があります。輸血した血液に含まれるリンパ球が、輸血された体の細胞を攻撃してしまうのが原因です。
このリンパ球を無力化するために、輸血用血液には放射線が照射されています。放射線量は15Gy〜50Gy。この程度であれば赤血球・血小板・顆粒球の機能にはほとんど影響がなく、なおかつ輸血後GVHDの原因であるTリンパ球をやっつけることができる、というわけです。
(枠内に「照射」の文字)
医療被曝際立つ日本の現状

たとえば原発とか、医療以外のあらゆる放射線の被爆については厳しい規制値が設けられています。でも、医療にまつわる被爆は青天井なんです。日本は「医療先進国」である以上に「医療被曝先進国」であるといわれています。
白血病の治療を行うための放射線照射では、致死量(5〜6Gy(*1))を越える放射線を全身に照射します(生存のため骨髄移植が前提となる)。放射線被爆のリスクよりも、治療が期待されるというメリットが大きからこそ、の特異的な措置です。規制値を設けるということが困難である所以です。
もちろん医療スタッフや、被検者以外に対する被爆は規制値が設けられており、他の業種と比較しても割り合い厳格に規制が守られている印象があります。
ところが、こと患者に対しては、被爆のリスクと診断・治療のメリットとの合理的バランス(これを「リスク・ベネフィット」という)が取れているのかというと、甚だ疑問です。

ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告にもとづけば、35歳以下の胃集団健診は意味の無いこととされています。何故かと言えば、それ以下の年齢では放射線感受性が高く、放射線被爆により発ガンリスクが高まること。そしてたとえガンが見つかったところで、進行が速いので早期発見による延命が期待できないこと。が、その主な理由です。
しかし実際にはそのような意味の薄い検査というのは日常的におこなわれています。主な原因は二つ。患者側の論理、そして病院側の論理です。

患者側は、検査されることによって安心を得たい場合があります。「あなたはガンではない」「病気ではない」という診断の確証を得る証しとして、たとえ無駄であろうともより多い項目の検査を望む人々は存在します。採血されるため進んで痛い思いをして、余計な放射線を浴びて。まるでマゾヒストのようですね。それだけ辛い目に逢えば、病気にかからないとでも思うのでしょうか。
病院側としては、そのような患者の要望には応えざるを得ないでしょう。また、日本でも医療過誤に対する風当たりは相当厳しいものがありますので、病気を見落とすわけにはいかないというプレッシャーも大きくなっています。そのため、診断の確定に慎重を期すあまり、必要以上に検査項目を増やしてしまいがち、ということになってしまいます。
これがアメリカですと全くの逆で、余計な検査はまず患者が希望しません。何故なら公的医療保険制度がありませんので、ただでさえ医療費が高額だからです。日本では1〜2週間入院させる手術でも、かの地では患者が2〜3日で「逃げるようにして」退院していきます。また、余計な検査がおこなわれないように、民間の医療保険会社が「ことあるごとに」調査していきますので、病院側も無駄を指摘されないように神経を使わざるを得ません。
一体日本の保険会社は何をやっているのだろうか?と、首をかしげたくなりますね。きちんと無駄を省けば保険料はもっと安くできるのでは?

ちょっとばかり古い資料ですが、1983年に「FDA(アメリカ食品医薬品局)胸部X線諮問委員会による指摘」が公表されています。結核の胸部X線検査の適用についての指針です。
1:胸部X線写真では十分には結核が発見できず、放射線照射のリスクのほうが大きい
2:入学・就職時の義務的な胸部X線写真は、結核の発見に寄与していない。
3:ツベルクリン反応陽性者の胸部X線写真を、繰り返し撮影することは、意味が無い。
4:治療終了後の、無症状の患者に対する胸部X線写真は意味が無い。
5:治療中に繰り返し胸部X線写真を撮影してはならない。
つまり、結核検診のために胸部X線写真を撮る意義は存在せず、患者・疑患者でさえ一度撮ればたくさん、という意味です。
こういった指摘やICRPによる勧告は数限りなく出されていて、特にICRP勧告は日本でも殆どの項目を受け入れています。しかし日本での法的規制には罰則規定がありません(日本の法律によくありがち)。第三者機関による監視もなく、唯一あるのは公的医療保険機関による監査のみ。これとて医療費の抑制が目的であり、被爆の適正化など、はなっから念頭にありません。実務上は医師の裁量権に委ねられているのが現状です。
べつに被爆するのが怖いから、ということをいうつもりはありません。しかし無駄だとわかっていながら、ただ漫然と合理性に欠けた検査をするのは止めましょうと言いたいのです。

(*1)Gy:グレイ。被爆量の物理的単位。


治療用放射線源紛失問題

放射線被爆事故、といえば一般に原子力関連施設でのみ起こっているもの、などと思われがちです。ところがどっこい、工業・教育研究機関・医療機関など、人知れず大線量の被爆事故は起きています。JCOの臨界事故のように死亡事故を引き起こすとか、重大な人的被害が起きなければ事故の情報は衆目に晒されず、闇の中に隠れていくのでしょう。
ここ最近になって、医療用放射線源の安全管理の徹底についての行政通達が、相次いで出されています。医療用の放射線源とは、つまり放射線治療(ガンを放射線でやっつけてしまう)用の放射性物質であり、60Co、137Cs、192Irなどを使った高線量率(強い放射能)の密封放射線源です。たとえば放射線源の交換作業の際、ちょっとしたミスが重なり作業員が被爆してしまった、という事故ですと原因の究明やその後の対策もたやすいのですが、もっと深刻な事態が頻繁におこっています。それは放射線源そのものが紛失してしまうという事故です。しかもその多くがいまだ行方不明になったままです。
国内で放射線治療用の高線量率放射線源を使用する医療機関は約500件で、厳格な許認可登録制により管理されています。放射線源の使用と所持にあたり、届出制が義務づけられたのは1956年。ところが実は、既に1934年から研究レベルでの使用がおこなわれていたんです。つまりこの間の22年間に購入された226Ra等の線源について正確な数はわかっていません。もちろん1956年の届出制移行の際に、多くの施設は過去の分まで遡って登録申請を済ませたはずですが、登録外(無許可)の線源が偶然発見されたりする、等の事件は後を絶ちません。私も以前、身近で次のような話を耳にしました。
とある病院で、施設の改築がおこなわれる事になりました。改築に伴い基礎工事の準備が始まります。この模様を見た年配の職員はあわてました、「その場所には廃棄した線源が埋設してあるはず」と。複数の証言をもとに、急遽立ち入り禁止区域が設けられ、地下を掘削しての捜索がおこなわれることになりました。ほどなく放射線測定器の針は振り切れ、線源の存在が確認されました。
いったいどのような状態で埋設されていたのか、知る由もありませんが、放射能漏れが起きていなかった保証は全くありません。すぐ近くには民家や保育所もある地点です。そしてこの事件は恐らく国内でも氷山の一角に過ぎないと思われます。

今後ますます需要が増えると考えられている医療用放射線源。しかし現在年間10件以上の紛失事故が報告されています。国内では幸い死亡事故は発生していませんが、さらなる管理徹底が望まれるところです。「事故報告は宝の山である」という言葉があります。人間は必ずミスを犯すものであり、事故の詳細な情報というものは、次の事故を未然に防ぐ最大の処方箋なのです。厚生労働・文部科学の両省庁には、詳細な事例調査と分析、またそれらを広く公開して対策に役立てることができるようにしてほしいものです。

諸外国で発生した重大事故例を紹介します。
・1963年、中国 60Co線源を子供たちが閉鎖された病院から持ち出し、家に持ち帰って家族計6人が被爆。持ち出して被爆した子供2人は死亡。残り4人のうち2人は致死量を越える被爆であったが、骨髄移植により一命をとりとめる。
・1987年ブラジル・ゴイアニア 閉鎖された病院の解体中、放射線治療用137Cs線源を業者の一人が家に持ち帰り、その家族が被爆。うち4名が死亡。この業者は放射能とは気づかず自宅で密封容器を開け、塩化セシウム粉末の状態にして「光を放つ不思議な粉」として近隣に見せるなどさらに拡散を助長、汚染を拡大してしまった。降雨も重なったことから、広く一帯が汚染された。
・1989年、エルサルバドル・首都サンサルバドル 滅菌用60Co照射作業中、高線量率の60Co線源が格納容器に収容されていないことに気づかず、線源に近づき作業員3人が被爆。
・1992年、アメリカ。放射線治療用リモートアフターローディング装置(*2)を使った放射線照射中、ワイヤーの破損により192Irが患者の体内に取り残され、これに気づかないまま患者を転院させる。患者は4日後に死亡。さらに12日を経たのち、医療廃棄物処理場で192Irが発見され、初めて紛失の事実が発覚。医療スタッフ、搬送中の第三者、家族など多数の人が被爆。

(*2)リモートアフターローディング装置:放射線照射治療で密封小線源を用いる場合、術者の被爆が避けられない。この問題を解消するため考えられた、遠隔装置を用いて線源を格納容器から照射部位まで移動させる装置。


医療放射線番外編
無料アクセスカウンターofuda.cc「全世界カウント計画」